Java7 Update4 (java7u4) で正式サポートされたG1GC(ガベージ・ファーストGC)ですが、Java9ではデフォルトGCになることが確定しています。
参考: JEP248
またG1GCは、CMS GCを長期的に置き換えるものとして計画されています。
そこで、どのようなアルゴリズムなのか知っておいたほうが良さそうなので調査しました。
G1GCが向いているケース
G1GCが向いているのは下記の環境です。
- ヒープサイズが大きな環境(6GB以上)
- 一時停止可能時間がシビア(0.5sec未満)
Oracleの 9 ガベージファースト・ガベージ・コレクタによると、CMS GCもしくはParallel GCを使っていて次のいずれかに該当したらG1GCへの切り替えを検討しましょうとのことです。
- Javaヒープの50%超がライブ・データ(≒必要なデータ)で占められている。
- オブジェクトの割当て率または昇格率が大きく変化する。
- ガベージ・コレクションまたは圧縮によるアプリケーションの一時停止の長さが望ましくない(0.5から1秒を超える)。
私はヒープの50%以上がライブ・データで占められており、一時停止可能時間がシビアなアプリケーションをCMS GCで扱っているので、この謳い文句には大変惹かれました。
G1GCの特徴
それでは、G1GCはどのようなアルゴリズムなのでしょうか?
G1GCの特徴は大まかには次の3点になります。
- ヒープを不連続で細かいリージョンという単位で管理する
- 目標停止時間を守って収集を行う
- ガベージ率が高そうなヒープに対して収集・圧縮を集中する
ヒープは均等サイズのリージョン・セットに分割され、若い世代も古い世代もこのリージョンで管理されます。
G1GCは、ヒープ全体のオブジェクトがライブかどうかを判断する、同時グローバル・マーキング・フェーズを実行し、どのリージョンにガベージ(≒ゴミ)が多いかを認識します。
ガベージでいっぱいとなっている可能性が高いヒープ領域に対して、収集・圧縮を集中するので G1 = ガベージ・ファースト と呼ばれています。
このときG1GCは一時停止予測モデルを使って、指定された一時停止時間目標に基づいて収集するリージョン数を選択します。
この仕組みによりマルチ・プロセッサ環境下での低レイテンシ・高スループットを実現しています。
STW stop-the-world
万能にみえるG1GCにもSTW(stop-the-world)があります。
まず収集の最後に部分的なSTW、コンカレントなクリーンアップ・フェーズがあります。
またCMS GCと同様に、あるリージョンから別リージョンへのオブジェクト・コピー中にアプリケーションが新たなオブジェクトを割り当てた場合、ヒープの枯渇(割当の失敗)が発生します。
これはSTWフル・コレクションを引き起こします。
CMS GCからG1GCへのマイグレート
G1GCの特性が、私の扱っている環境に適していそうだったので、CMS GCからマイグレートしてみることにしました。
マイグレートの際に大変参考にさせて頂いたのがこちらのスライドです。
まずは現状の把握から。
変更前はCMS GCを使っていました。
対象となるアプリケーションは秒間100〜200程度のリクエストを捌いています。
サーバのスペックは
メモリ: 26G
です。
javaのバージョンは下記のとおり。
java version "1.8.0_31" Java(TM) SE Runtime Environment (build 1.8.0_31-b13) Java HotSpot(TM) 64-Bit Server VM (build 25.31-b07, mixed mode)
CMS GC時の起動オプション
${JAVA_HOME}/bin/java \ -Xmx13703M \ -Xms13703M \ -Xloggc:gc.log \ -XX:NewRatio=1 \ -XX:SurvivorRatio=2 \ -XX:TargetSurvivorRatio=90 \ -XX:MaxTenuringThreshold=15 \ -XX:+PrintGCDetails \ -XX:+PrintGCDateStamps \ -XX:+UseConcMarkSweepGC \ -Dcom.sun.management.jmxremote \ -Dcom.sun.management.jmxremote.port=7900 \ -Dcom.sun.management.jmxremote.authenticate=false \ -Dcom.sun.management.jmxremote.ssl=false \ -Djava.rmi.server.hostname=`hostname -f` \ -classpath ${CLASS_PATH} \ ${MAIN_CLASS} \ $@
VisualVMで見たCMS GCのヒープ使用率
細かくマイナーGCを行いつつも、徐々に使用ヒープが増えていき、閾値を超えるとメジャーGCでクリーンアップされている様子がわかります。
マイグレート
上記のスライドp48によると、G1GCはCMS GCよりもCPUを使うとのこと。
停止時間の予測している側面からだけ見てもオーバーヘッドが大きいのは納得。
さて、起動オプションですが、G1GCは目標停止時間を守るアルゴリズムなので、まずは -XX:MaxGCPauseMillis をどのくらいにするかを考えるべきでしょう。
このオプションのデフォルト値は200msです。
これは人間の知覚の限界と言われているので、まあ人間に対してレスポンスを返すようなアプリケーションであれば200msで良い気がしますが。
それからもちろん -XX:+UseConcMarkSweepGC を-XX:+UseG1GC にする必要があります。
その他上記のスライドp52を参照すると、 -XX:SurvivorRatio, -XX:TargetSurvivorRatio, -XX:MaxTenuringThreshold は消してしまえと。
各領域をどのくらいの比率で使うかは G1GC に任せたほうが良いということですね。
あとは マーキング・サイクルを開始するJavaヒープ占有率のしきい値を設定する -XX:InitiatingHeapOccupancyPercent と 適切な世代サイズを出力する -XX:PrintAdaptiveSizePolicyを設定しました。
G1GC時の起動オプション
${JAVA_HOME}/bin/java \ -Xmx13703M \ -Xms13703M \ -Xloggc:/var/log/ultima/gc.log \ -XX:+PrintGCDetails \ -XX:+PrintGCDateStamps \ -XX:+PrintAdaptiveSizePolicy \ -XX:+UseG1GC \ -XX:MaxGCPauseMillis=200 \ -XX:InitiatingHeapOccupancyPercent=50 \ -Dcom.sun.management.jmxremote \ -Dcom.sun.management.jmxremote.port=7900 \ -Dcom.sun.management.jmxremote.authenticate=false \ -Dcom.sun.management.jmxremote.ssl=false \ -Djava.rmi.server.hostname=`hostname -f` \ -classpath ${CLASS_PATH} \ ${MAIN_CLASS} \ $@
VisualVMで見たG1GCのヒープ使用率
変更後、VisualVMでヒープ使用率を見てみました。
たまにCPUの使用率がスパイクしますが、おそらくこのタイミングでグローバル・マーキング・フェーズが実行されているのでしょう。
ヒープの使用量は安定しています。
つまり効率的にヒープ領域をライブ・データに割り当てているといって良さそうです。
ただ、別の監視ツールで見るとCPU使用率はやはりCMS GCに比べて増えていました。
まとめ
G1GCよりCMS GCの方が早い、というコメントをたびたびネット上で拝見しますが、環境及びアプリケーション特性によって違う、というのが私の見解です。
※ 事実G1GCの方がCPUを使うのは確かなので、CPUリソースが逼迫していたらG1GCの利用は難しいでしょう。
Oracleが書いている通り、ヒープサイズが大きく目標停止時間がシビアな環境がG1GCに向いているのは間違いないと思います。
GCアルゴリズムも適材・適所ですね。